47『大いなる第一歩』



 彼らがそうしたから世界はこう変わった。
 今から見ると、彼がそうした事が全ての始まりだったのかもしれない。

 あれが上手く行かなければ全ては始まらなかった。
 世界も今とは全く違うものとなっていただろう。

 本人達から、その時代から見ると分からないかもしれないけど、
 そうして世界を変えた出来事。
 その始まりは今ではこう呼ばれている。

 大いなる第一歩、と。



 突然、彼らを取り囲んでいた大水流が消えた。
 どうやら《グインニール》の一回の攻撃が終わったらしい。
 それを《七色の羽衣》で防御し続けていたカーエスがガクリと膝をついた。顔面からは血色が失せ、全身の穴という穴から玉の汗がふき出している。

《カーエスとやら、大丈夫か?》
「あんまし大丈夫とは言われへんなぁ……」と、《アトラ》の問いに、カーエスは苦笑して答える。「先生はコレ平気で使っとったから、こんなキツいモンやとは思わんかったわ」

 大水流を放ち終わった《グインニール》は《アトラ》に向かって咆哮をあげる。そして三度目の大水流を放とうと、身体を仰け反らせる。
 それを見たカーエスが顔をしかめた。

「え……、もう次撃つん? こっちとしては、あんまし張り切られるとヒジョーに困んねんけどなぁ」

 緊張感の感じられない口調だが、切迫した状況をはっきりと感じさせる表情でカーエスはよろめきながらも立ち上がり、《七色の羽衣》を詠唱する準備をした。
 しかしいざ大水流が放たれようとしている時、《アトラ》が嘴から光熱波を撃ち、その邪魔をする。

《ずっとは無理だが、しばらく大水流が撃てないように粘ってやる。その間、休んでおくがいい》
「……おーきに」

 カーエスは礼を言うと、再び膝をついた。
 全身の力を極限まで抜き、少しでも力を回復しようと意識する。
 そして背後にちらりと目をやる。

(ちゃんと間に合うんやろな……?)


   *****************************


 カーエスの視線の先ではリクとフィラレスは向かい合って立っていた。
 リクがフィラレスと視線を合わせ、呪文を唱える。

「我ら、互いの合意の上に契約を結ばん」

 そして彼は右手をあげた。
 フィラレスも同じように左手をあげる。

「汝、一時献じるは魔力。その代償に我は汝が望みし時に一度、汝が僕として振る舞わん」

 これは《魔力貸借》という契約魔法である。
 術者と相手の合意により、術者は相手の全ての魔力を一時借り受け、代わりとして相手が臨む時に一度だけ、僕のようにどんな事でも言う事を聞くという契約を結ぶ魔法だ。二人の右手と左手を合わせて唱え切った時、魔力は相手から術者に移動する。
 この魔法を利用し、フィラレスの“滅びの魔力”をリクに移動し、リクが“滅びの魔力”を制御して、その全てを《グインニール》にぶつける作戦である。

 リクとフィラレスも右手と左手を合わせた。
 しかし、一向に魔力が渡ってこない。確かに魔力が相手から術者に渡り切るのは呪文の詠唱を終えた時だが、渡り始めるのは手を合わせた時である。
 それが入ってこない原因は一つしか考えられない。
 二人の合意が為されていないという事だ。

「フィリー……」

 リクが名を呼ぶと、フィラレスは申し訳なさそうに目を伏せた。
 だが、気持ちは分からないでもない。“滅びの魔力”がどれだけ恐ろしく危険なものなのか、彼女は身を持って知っているのだ。もちろん周りの者にとっても危険だが、何よりも“滅びの魔力”の持ち主自身が危険なのである。
 長年連れ添って来た自分でも制御出来ないのだ。そんな大きな魔力を他人に渡す事は出来まい。

(信用してくれって言っても、無理な話だよな……)

 しかし、彼女の“滅びの魔力”が無い限り、この状況を打破する望みは無い。おそらくここで皆死ぬ事になり、ファトルエルの歴史はここで閉ざされる事になる。
 そうなれば、リクの夢も叶わない。

「フィリー」

 再び呼び掛けられ、フィラレスは少し困った表情で、顔をあげた。
 リクはそんなフィラレスに優しく微笑みかけてやる。

「なあ、フィリーの夢って何だ?」

 「信じてくれ」とか「絶対に制御してみせる」とか、とにかく説得の言葉を掛けられるとばかり考えていたフィラレスは思い掛けない言葉に目を丸くする。

 自分の夢。
 そんなものは“滅びの魔力”が発現して以来、考えた事が無かった。
 自分に夢を見る権利があるとは思っていなかったから。
 今まで傷付けてしまった人達の事、そしてこれから絶対に人を傷付けないようにするにはどうしたらいいか。
 そんな事ばかり考えていた。

 敢えて言うなら、絶対に人を傷付けないような安全な存在になりたい。人を助けられるようになり、自分の罪を償えるようになりたい。
 そんなところだろうか。
 “滅びの魔力”が発現する前は、お菓子屋さんになりたかった憶えがある。そして、女性共通の夢として好きな人と結婚したいとも考えていた。

 しかし、フィラレスにはそれを答えとして口にする事は出来ない。
 そんな事は重々承知しているリクは、フィラレスに答えを考える時間だけを与えて話を進めた。

「俺も夢がある。叶う見込みがほとんどねーような大それたヤツだけどな。でも叶ったらいいな、と思う。……フィリーもそうだろ?」

 問われ、フィラレスは頷く。
 確かに叶えばいいな、とは思う。

「でもここで死んだら夢を叶えようと努力することも出来なくなるわけだ。それは嫌だろ?」

 再び問われ、フィラレスは頷く。
 そして、リクは本題に入った。

「正直言って、俺が“滅びの魔力”を操ろうなんて作戦はあまり勝つ見込みのねー賭けだと思う。俺は“滅びの魔力”なんて持ったコトねーからな。操れるかどうかなんて保証は出来ねぇ。
 でもな、ここで何もしなければ確実に俺達は死ぬ。俺達の夢が終わっちまう。だがここで賭ければ俺達は助かる。夢も続く。可能性は低いけどな。
 賭け金は“滅びの魔力”。勝てば命と夢。……どうだフィリー、賭けてみないか? この俺に」

 三たび問われ、フィラレスはこれにも頷いた。
 何もしなくても死ぬのだ。
 ここで何を恐れても無駄なだけだ。

 リクも頷き返し、改めて二人は向かい合って立つ。

「我ら、互いの合意の上に契約を結ばん」

 リクが右手をあげ、フィラレスが左手をあげる。
 先程と比べると、心無しかフィラレスは微笑んでいるように見える。
 大丈夫、上手く行く。
 彼女の表情を見てリクはそう思った。

「汝、一時献じるは魔力。その代償に我は汝が望みし時に一度、汝が僕として振る舞わん」

 そこまで唱え、二人はハイタッチをするように上げた手を合わせた。
 その瞬間から“滅びの魔力”がリクの身体の中に流れ込んで来る。
 内心で成功を喜びながら、リクは詠唱を完了させた。

「《魔力貸借》」


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「……数字的にはどうなんだ?」

 カルクが傍らに寝転ぶファルガールに尋ねた。

「あん?」と、ファルガールは間の抜けた返事をした。疲れ切っている上に、《グインニール》に存在を忘れられたらしい現在の状況に緊張の糸が切れ、一気に眠くなってしまったらしい。
「リクの魔導制御力。何パーセントなんだ?」

 魔導制御力はもし完全に魔力を制御し、完璧な魔導を行った場合の魔法効果を最高の百パーセントとする百分率で表される。
 最低六十パーセントで魔法が発動するとされている。一般に一人前と認められる魔導士の魔導制御力は七十から八十パーセントくらいだ。
 そして自惚れでなくファトルエルの決闘大会に出場する者達の平均魔導制御率は大体八十パーセント後半。そして毎年の優勝候補となると、九十パーセント前後が相場となる。
 九十パーセント後半に手が届くものはほとんどいない。

「“滅びの魔力”を制御しようと言うんだ。まさか並みではないのだろう?」
「……嬢ちゃんは?」

 例によってファルガールは答えをじらす。

「フィラレスは八十七パーセントだったかしら」
「立派なモンだ。でもそれでも魔封アクセサリーは外せねぇんだな」と、ファルガールはマーシアの答えにコメントしカルクの方に視線を移す。
「カーエスは九十一パーセントだ」

 ちなみにクリンとクランは一人ずつで八十五パーセント。二人で“二重詠唱”を行った場合、例外的に百三十パーセントを超える数値が出る。

「へぇ、立派に優勝候補クラスじゃねぇか。で、マーシアが九十四パーセント、カルクが九十五パーセント……だったよな? で、俺が九十六パーセント」
「……ファルガール、いい加減にしておけよ」

 はぐらかし続けるファルガールにカルクが声を低くして言った。
 聞いていたのか、いないのか、ファルガールは同じ調子で続けた。

「……そしてリクが九十九パーセント」

 その瞬間、沈黙がその場を支配した。
 あんまりさり気なく答えたので一瞬何を言われたのか分からなかったが、何を言っているのかに気付き、次にその言葉が何を意味するのかを理解する。
 そして長い長い三秒間が過ぎた時、カルクがやっと口を開く。

「九十……九パーセントだと……!?」
「ああ。九十九パーセント。すげぇだろ?」

 ファルガールは軽く言うが、クリン=クランのような例外を除くと、この数字は記録に残る限り前人未到の数字である。
 ファルガールの九十六パーセントと三パーセントしか違わないように見えるが、魔導制御力は高くなるに従って一パーセントの差が大きくなっていく。特に九十パーセントを超えると一パーセントの差が魔法効果にはっきりと現われるようになる。
 そんな魔導制御力でこの数字はまさに異常とも言えた。

「“滅びの魔力”ともなると百パーセントでねぇと完全に安心する事は出来ねぇが、残り一パーセントの魔導制御のスキで“滅びの魔力”がどう出るかは、ま、賭けだな」


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 強大な魔力がリクの空になっていた身体を駆け巡っていた。
 その魔力は子供のように落ち着く事を知らず、リクの制止をまるで気にとめる事もなく暴れ回る。
 身体の中で暴走している“滅びの魔力”は外に出よう、外に出ようと動き、風船に入れ過ぎた空気のように彼の身体を内側から割ろうとし、実際、風船の穴即ちリクの傷から魔力が勢いよく漏れ出しているのが肉眼で確認できる。
 息が詰まりそうな感じだったが、迂闊に息をする事も出来ない。確実に息だけを吐かなければならない。
 少しでも気を緩めたら確実に暴走が始まる。

 リクは小さく呻き、膝を付く。その顔に脂汗がびっしりと浮いている。
 フィラレスが心配そうにしゃがみ、リクの顔を覗き込むが、目の前の彼女も今の彼には気が付くことが出来なかった。


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 《アトラ》が三度目の光熱波を放ち、三たび《グインニール》の大水流を防いだ。
 見た目は何も変わらないが何度も何度も邪魔をされ、《グインニール》はすこし苛立っているような感じがする。
 だがそれはおそらく自分が《グインニール》の立場だとしたらそう感じるからだろう。
 そんな事を考えているカーエスに《アトラ》が話し掛けた。

《邪魔をするタイミングが徐々に遅れてきてしまっている。この調子だと次はおそらく間に合わない。防御魔法の準備をしておけ》
「了解」

 カーエスがうずくまってしまったリクから目を離し、すっくと立ち上がった。改めて《グインニール》を見据える。
 そしてカーエスは《アトラ》に言った。

「……礼言うとくで、結構休ましてもろたわ」
《強がるな。実のところ、次の大水流は防ぎ切れないのだろう?》

 言われて、カーエスはしばらく押し黙った。
 だが急に明るい顔でからからと笑う。

「バレてもーてたんか。せやで、多分途中で力尽きると思うわ」
《……そなたは間に合うと思うか?》

 一瞬何の事かと思ったが、すぐに分かった。
 リクのことだ。

「知らん」
《知らない? どういう事だ?》
「俺は、俺のできる事を精一杯やったる。あいつもおんなしやろ。その結果がどうなろうと、俺の知ったこっちゃないわ。……おい、来るで!」

 カーエスの強い視線の先では《グインニール》が最後の一撃を放たんと大きく仰け反っていた。
 《アトラ》は話ながら蓄えていたエネルギーを光熱波として放つ。
 しかしそれは予想通り一歩届かず、《グインニール》の大水流に飲み込まれた。大水流がカーエスに迫る。

「火には水となり、風には土となる、斬る者あれば固くなり、殴る者あれば弾力を得ん、その特性は臨機応変、行うは武力の妨げ。我が纏いし《七色の羽衣》は如何なるものも拒絶する!」

 カーエスの手から虹色の光の膜が広がり、大水流に襲われる《アトラ》を包む。
 直後、彼らを包む風景が水一色になった。
 カーエスは膜を押し破らんとする目の前の激流を睨み付け、全力を持ってそれを防ぎに掛かる。
 できる事をやる。
 できるだけ長い時間《七色の羽衣》を維持し続けるのだ。

 今はそれだけ。
 カーエスはもう背後のリクを気にしなかった。


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 何も見ない。
 何も聞かない。

 そこまで集中していないと、“滅びの魔力”はすぐにどこかに行ってしまおうとする。
 リクの九十九パーセントの魔導制御力。しかし“滅びの魔力”はダムに穿たれた穴から出ようとする水のように、その残り一パーセントの穴に殺到するのだ。
 リクは、意識をどこかに向けると反応してそちらに向かってしまう“滅びの魔力”の性質が身に染みて分かったような気がした。
 こんな魔力をずっと持っているなんて、考えるだけでそら恐ろしい。
 そのそら恐ろしい状態でずっといたのがフィラレスだ。口が利けなくなってしまったのも分かる気がする。

 しかし、抑えているだけでは駄目だ。しっかりと導いて全部あのグランクリーチャーにぶつけなければならない。
 何とかしなければと“滅びの魔力”を動かしてみたものの、それは過剰に反応し、危うくカーエスを背後から襲うところだった。
 寸前でリクはそれを抑える事に成功したが、既に尽きかけている精神力を思いきり消費してしまった。
 だが今の失敗は精神力の無駄遣いでは終わらなかった。

(そうか、元々外に出ようとする魔力なんだから、いつもみたいに引っぱり出そうとしたら勢い余るに決まってる。
 “滅びの魔力”は俺の元の魔力とは全く逆なんだ。通って欲しいところを引っぱり回して先導するんじゃない。逆に通って欲しくないところを抑えて、通らざるを得ないような“道”を作って導くんだ……!)

 そしてその道はただ一本。《グインニール》目掛けて真直ぐに。
 魔導が複雑すぎるいつもの魔法では駄目だ。
 自分の全ての魔力を真直ぐに敵にぶつけるシンプルな魔法。
 リクはそんな魔法を一つだけ知っていた。


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「く……くっ………」

 《アトラ》を包む虹色の防御膜の正面部分が大きく凹んで来ている。彼らを襲っている大水流の水圧に押され始めているのだ。
 カーエスは何とかそれを修正しようと魔力を送るが、送る魔力もあまり残っていないし、このデリケートな防御魔法を操る精神力が底を尽きかけている。

 ふっ、とカーエスの横に影が差した。反射的にカーエスがそちらに目をやる。

「リク……!?」

 リクはカーエスが目に入っていないのか、彼を押し退けるようにしてカーエスに肩をぶつけて進み、《アトラ》の長い首の付け根あたりまで歩いて行く。
 その視線はまっすぐ正面を向いていた。しかし目の前の大水流を見ているわけではない。その向こうの《グインニール》を見据えているのである。
 肩をぶつけられた拍子にカーエスの集中が切れ、大水流が遂に《七色の羽衣》を破った。

「……しもたっ……!」

 目の前に圧倒的な量の水が流れ込んで来る。
 リクはそれを前にしても何ら反応を示さない。

(……まさか、あいつあの大水流が見えてへんのか!?)

 しかし見えたからと言っても何も変わらない。
 変に焦って失敗されるよりマシだ。が、少しは急いで欲しい状況ではあるのは否めない。
 リクは真直ぐ前を見据えながら目の前の大水流に向かって両手を構え、そして落ち着いた声で詠唱を始めた。

「目覚めよ、我が内に眠る全ての魔力よ! その力解き放ちてここに集え!」

 リクの全身からフィラレスの時と同じように光の帯がほとばしり、リクの掌の先に集結して行く。
 それはいつまで経っても終わる気配がなく、リクの手の先に集まった魔力の玉はリク自身、否、《アトラ》でさえも全身を飲み込まれそうな程巨大に膨らんで行く。

 だがそうしている内にも大水流はリク達に向かって迫り、リクの魔力の玉にぶつかった。
 押し流されるかと思いきや、それは川の流れを分かつ石のように、大水流から《アトラ》に乗る者達を大水流の流れから守る。
 ようやく魔力の玉の膨張が終わり、リクは詠唱を続けた。

「そして、我と相まみえし彼の者を討ち滅ぼす奔流となり波となれ!」


(疲れたなぁ……)

 リクはそう思った。
 それもそのはずである。昨日からジェシカ、クリン=クラン、カーエスと闘い、その直後にフィラレスを助けに走った。更にその夜のジルヴァルトとの死闘。自分の体力と魔力を使い果たし、一睡もしないまま今こうして大災厄と闘っている。

(……でもこれもあともう少しだ)

 この魔法さえ完成させれば全てが終わる。
 ゆっくりと休むことができる。
 今なら、堅くて寝辛かった『旅宿・バトラー』のレンガ造りの似非ベッドでもぐっすりと眠れることだろう。
 食事も腹が一杯になるまでしたい。大会中はろくなものを食べていなかった。

 あれもしたい。
 これもしたい。
 終わった後にしたい事はたくさんある。

 これさえ終われば全て実現できる。
 この魔法さえ完成させれば……


 そしてリクは魔導を終え、その魔法の名で詠唱を締めくくった。

「《無限の波動》!」

 リクの手の中にあった魔力の玉が光を増す。
 そして魔力の奔流となって、先ず《グインニール》の大水流と正面からぶつかりあった。
 力を分散する事なくただ一方向に集中して放たれた“滅びの魔力”は圧倒的な力を誇り、その大水流をもあっという間に制する。
 それだけでは終わらず、“滅びの魔力”は更に勢いを増し、大災厄の核であるグランクリーチャー《グインニール》の身をもその流れの中に飲み込み、滅ぼして行く。

 やがて《グインニール》の完全に消滅した時、大災厄の中心であるその頭上から、波紋が広がるように空を覆っていた雲が晴れて行く。
 同時にファトルエルを襲っていたクリーチャー達も地面に融けるように消滅して行き、ずっと止まなかった地震も収まった。
 そして完全に大災厄の暗雲は晴れ、東の空から朝日が顔を出す。


 その瞬間、ファトルエルの長い夜は終わった。
 人が初めて大災厄に打ち勝った歴史的瞬間だった。

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